あなたの人生を輝かせるコミュニケーションの力
話を聴くということ

5.傾聴のスキル

質問者は、準備した質問を次々としながら、相手が話してくれる内容とそれ以外のものを全感覚を動員して把握しつつ、メモもとり、頭の中は立ててきた仮説を検証したり仮説の再構築をするなど、かなりあわただしい中で、忘れてはならない大切なことがあります。

それは、傾聴していることを、言葉や態度で表すことを怠らず、要所要所で話の内容を確認していく、ということです。

話し手は、きき手しだいだ、ということを先にお話ししましたが、話し手が一生懸命話している間、きき手がぼーっと無反応でいたり、ひたすら下を向いて必死にメモをとるだけで、相槌もなく、頷いてもくれないと、沈黙の時間が広がり、両者とも緊張するか、話し手が話す気力を失ってしまいます。

傾聴は、メラビアンの法則を考えれば、言葉、声の調子、態度や表情で示すことができますね。言葉と声の調子であれば、“そこは大事なポイントですね”と気持ちを込めて言ったり、“そんなことがあるのですか!”と驚いたように言ってみるなど、いろいろなバリエーションがあります。態度では、視線を合わせる、頷く、微笑む、驚く、身を乗りだす、話し手の方にフルに向き直る、などがありますね。ここで、メモをとる、というのも、傾聴の一つです。なぜならば、話の内容を大事に扱っているわけですから。ところが、メモをとることに夢中になると、無言で下を向く時間が長くなり、話し手からすると、とても話しにくい状態になります。

ある雑誌記者の方は、メモというのはコミュニケーション空間に入り込んだ異物だ、とおっしゃいます。インタビューは、する側もされる側も緊張するもの、それをさらに増すのがメモだといいます。ですから、その二重の緊張をほぐせるだけのゆとり、相手をリラックスさせるだけのゆとりが必要だ、と。通常のコミュニケーションがきちんとでき、緊張感などの自己管理ができて、はじめて満足なメモもとれるのだそうです。また、彼女は、こんなことも教えてくれました。

“そのへんにある紙の端っこを破いてきたような、いい加減なメモ用紙を使われると、どうせすぐ捨てられちゃうんだろうな、私の話はそんな扱いか、と思って一生懸命話す気がなくなっちゃうんです。ですから、メモは、ちゃんとしたノートなどがいいですよ”

“新人が、相手の話すペースが速いので、電話取材ではメモがとれない、というの。そんな時は、たとえば、ああ、そういうことがあるのですね、とか、ええと、〇〇ということでいいでしょうか、などと言って、間合いをとっていけば、話の内容を確認しつつ、メモもとっていけるのに。”参考になりますね。

また、相手のおっしゃることが、どんどんそれていくことがあります。もし、用意した質問の流れから離れていっても、それが必要なことならば、用意したものにとらわれず話を追っていく必要があります。むしろ、その場合は自分の思考の枠から離れる勇気が必要です。

そうではなくて、必要なことからそれていった場合、これを本筋に戻すのは、きき手であるあなたの役割です。それていく前の話題に戻したい時は、“先ほど、〇〇とおっしゃっていたことを、もう少し詳しくおききしたいのですが。” “先ほどの〇〇のお話、大切なポイントだと思うので、もう少しお話いただけますか?”など、相手の気持ちを損ねないように引き戻しましょう。

また、傾聴の仕方で、相手の話を、こちらの望む方向にリードしていくこともできますね。

“昨日、アメリカ商工会議所のメンバーの橋本さんと、幕張メッセのイベントに行ってね”というお話が出た場合で考えてみましょう。

“橋本さんとですか!”と相槌を打てば、“君も、橋本さんを知っているの?そういえば、橋本さんも君のところのシステムを使っているんだっけね。最近、彼のところではこんな問題があって…”という具合に、話題は橋本さんの方に流れていきます。

一方、"幕張メッセのイベントですか!“とくれば、”そうそう、セキュリティーに関係する新しいサービスがいろいろ出展されていて、興味深かったよ。そろそろ、うちも考えなくちゃ"と、また別の流れになります。

傾聴は、けして受動的な行為ではありません。表立ってリーダーシップを握るのではなく、あくまで相手を尊重しながら、しかし、しっかりと話をリードしていくことができるのですから。

さて、お話が盛り上がっていくと、忘れがちなことがあります。それは、ポイントごとに、内容を確認することです。相手の話してくれたことを自分が正しく把握しているかどうかを、口に出して伝え、相手からその通りだ、という言葉をもらったり、そうでない場合には訂正をしてもらうことです。

これは、言葉で書かれると簡単そうですが、実は難しいスキルです。まず、タイミング。話がテンポよく進んでいると、一呼吸置いてまとめをするタイミングをしばしば失します。あまり頻繁に行っても話の腰を折りますし、遠慮しているとまとめきれないほどたくさん話が進んでいってしまいます。

また、話の途中で、今までの要点を短い言葉で的確に表現するのは、意識してトレーニングを心がけなければできるものではありません。ポイントがずれたり漏れがあると、きちんときいていない、能力に問題がある、とマイナスの印象を与えることにもなりかねません。

年上の女性で、この確認がとても上手な方がいらっしゃいます。さりげなく、押しつけがましくなく、とても正確に行うので、尊敬さえ感じてしまいます。ご本人はそれほど意識しているわけではないようですが、若い頃、雑誌記者をなさっていたので、おそらくその当時身につけて、今ではごく自然に無意識のうちにできるようになっているのでしょう。ある時期、数ヶ月程度、意識して使うと、最初はぎこちなくても使うたびに少しずつ上手になっていくのが“スキル”です。そうして一度身につけてしまうと、あとはもう自分のものとなり、必要な時に、自分らしく、自然にできるようになるのです。彼女のこの確認のスキルは、私にとって彼女を1.5倍くらい魅力的に見せています。お金は使えば使うほどなくなりますが、スキルは使えば使うほど増えていくのです。

さて、確認についてもう一つ、覚えておいてほしいことがあります。それは、相手の使った言葉をそのまま復唱するように使うと、一見正確そうに感じられますが、実はこのやり方は、お互いの理解の違いに気がつきにくいのです。自分の理解したところを、自分の言葉で伝える方が、微妙なズレを相手から指摘していただける機会が増えるのです。
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