話を聴くということ
3.対人敏感性
あなたが、誰かと顔を見合わせながらコミュニケーションしているところを思い浮かべて下さい。お互いに会話を交わしながら、コミュニケーションをしています。そんな時、思わず微笑んだり、目を見つめたり、視線をはずしたり、眉をしかめたり、そっとささやくように声を落としたり、ちょっと高いトーンにしてみたり、指先や手が動いて何かを表現したり、首をかしげたり、横をむいたり、と、言葉にならない部分も含めてコミュニケーションをしていますね。
“最近元気なの?”と問い掛けた時、“ええ、もちろん、とても元気よ”という言葉が返ってきても、その表情が冴えなかったり、声が落ち込んでいれば、“ははぁん、何かあったな”と誰でも察しますね。いくら言葉で“とても元気”と言ってみても、誰もそうは思いません。
このように、顔を合わせてコミュニケーションをする場合、人は表情や声のようすから、ときに言葉をしのぐほどのメッセージを受け取っているのです。
数年前、UCLAでコミュニケーションを学んできた友人が、単位にはならないけれど、素敵なおじいさま教授がいらして、面白いお話をきいてきた、と教えてくれました。
その教授は、人生の大半をかけて世界を巡り、人がどのようにコミュニケーションをとるのをつぶさに研究してきた結果、次のような結論に到達したそうです。
対面のコミュニケーションの場合、人は、次の3つの要素からメッセージを受け取っている。その3つは、
@ 言葉(文字で記述できる部分を意味します)
A 声の調子(聴覚で捉えられる情報のうち、@以外のものです)
B 態度・表情(視覚で捉えられる情報です)
そして、@ABをあわせて100%とすると、それぞれは、どのくらいの割合になるか。
授業で問い掛けられた友人は、とっさに頭の中で数字を想像したそうです。皆さんは、それぞれ、どのくらいだと思いますか?3つの要素のうち、どれが一番大きいと思いますか?
この素敵なおじいさま教授は、実は、とても高名なアルバート・メラビアン教授とおっしゃり、手話の国際共通語の研究などを専門とし、何度か来日されたこともある方です。
彼は、次のような数字を発表しています。
@言葉 7%
A声の調子 38%
B態度 ・表情 55%
これは、世界数十の民族を調査した結果ですが、日本人のみを対象として調査なさったのが、実践女子大でパフォーマンス学を研究している佐藤綾子教授です。佐藤教授によると、日本人の場合、次のような数字になったそうです。
@言葉 8%
A声の調子 32%
B態度 ・表情 60%
メラビアン教授の数字と大差ないですね。世界標準からみると、日本人は、いくらか言葉に重きをおいている、といえるでしょうか。また、声の調子(大きさ、抑揚、強弱、メリハリなど)は比較的平坦な分、表情を読む、腹を読むことに長けている、というように感じました。
こういった調査から学びたいのは、コミュニケーションでは、相手が話してくれる言葉だけではなく、非言語メッセージにどれほど敏感になれるか、ということが、大きなポイントになるということです。それは、どなたも漠然とお感じになっていることとは思いますが、この数字は、その認識を新たにするのに十分なのではないでしょうか。
ことに仕事の場面では、もちろんこの数字がいつもこのままあてはまるとは限りませんが、意外に言葉に気をとられて、もっと大切なことを忘れがちなように思います。