話すということ
4.説明のスキル
わかりやすい説明をするために、どんなことを心掛けていらっしゃいますか?
きき手にわかる言葉を使う、専門用語を多用しない、例や例え話を使う、具体的な数字やデータをあげる、これから話す項目の数を最初に伝えてから話し始める、資料をビジュアルにして一見してわかるようにする、実物を見せながら話すなど、日常心掛けていることと思います。
それらに加えて、ここでは、世の中で広く使われている"説明のスキル"をご案内いたしましょう。
きき手に影響を与えて認識や行動の変化を促すには、そうすることがきき手にどれほど魅力があるか、満足感を与えるか、などを伝えることが効果的です。ある事柄が、それ自体どれほど立派かを力説するより、その事柄がきき手にとってどれほど素敵なことをもたらすかを伝える方が、人を動かしますね。ここでお話する説明のスキルの狙いは、そこにあります。
ここでは、説明を次の3つの部分に分けて考えます。
@ 特長
A 利点
B 満足
@ 特長とは、それは何であるのか、という部分です。この説明のスキルの狙いは、きき手にもたらされる魅力や満足感(B)を伝えることにあります。特長とは、その満足をもたらすものが何であるのか、を指します。それは、機能、性能、スペック、仕様などであり、しばしば専門用語が含まれます。
A 利点とは、特長のもつ意味、特長がもたらすメリット、他に比べて優れている点です。特長が専門用語であれば、利点では、その意味が明らかにされます。
B 満足とは、それがきき手にもたらす満足感、魅力、素晴らしさのことです。
さて、それでは、このスキルを使い、南太平洋に浮かぶ島々を、旅行者にアピールするケースを考えましょう。南太平洋には、堡礁、環礁、卓礁という地形をもち、その地方特有の貴重な原種も含むトロピカルな植物群が谷深く生い茂るさまざまな島があります。それが、旅行者にとってどんな満足をもたらすかを表現してみましょう。
なお、お読みになる時、お話しになる時は、@とAの間に「ですから」を、AとBの間に「従いまして」を入れると、文章が繋がりやすいです。
【ケース1】
@ 特長
イル・デ・パン島は、堡礁、環礁、卓礁という地形をもっています。
A 利点
(ですから)島の周りは、珊瑚礁でできた美しいリーフで囲まれています。
B 満足
(従いまして)真っ白な砂浜に打ち寄せる波は穏やかで、浅瀬には色とりどりの熱帯魚が泳ぐ、理想的な南の島を満喫していただくことができます。
【ケース2】
@ 特長
グランドテール島には、強い殺菌力をもつニアウリの林があります。
A 利点
(ですから)蚊や毒虫、雑菌類を、かなり防いでくれます。
B 満足
(従いまして)南の島にありがちな痒みや痛み、腹痛などの心配が少なく、快適なバケーションを過ごしていただくことができます。
ここで、同じ一つの特長でも、きき手の関心、興味、ニーズに合わせて、いくつかの利点、満足の展開の仕方が考えられます。
ケース1の堡礁、環礁、卓礁という地形を例にとってみましょう。ハネムーンで訪れる若いカップルに対してなら、堡礁、環礁、卓礁などが作る、まぶしいほどの白さをもったパウダーサンドと、どこまでも続くロマンティックなビーチ、地元の人がクニエ(宝石)とよぶ、信じられないほど澄んだエメラルド色の海を利点として強調し、そこでできる人生でただ一度きりの思い出を満足としてあげることができます。
同じ特長を、マリンスポーツが趣味のビジネスマンにプレゼンテーションするならば、世界でも有数の珊瑚礁の海には、バラクーダ、ナポレオン、ホワイトチップから、ザトウ鯨やミンク鯨、巨大な海カメ、イルカ、そして季節によってはマンタが泳ぎ、ダイビング・スポットにはことかかないことを利点にあげ、満足としては、その魚影の濃さ、光る魚に囲まれての宇宙遊泳のようなダイビングの体験、素晴らしい水中写真のお土産を約束することなどをあげることができます。
いずれも、きき手のことを知った上でなければ、的確な展開はできません。ここでも、コミュニケーションの流れを踏まえることが大切です。