喜んでいただくということ
3.ホスピタリティー
第2章 自分を育てる/納得していただくということ(2.交渉していく場合)で、顧客満足、サービスといったものが、マニュアル通りの同じ笑顔、同じ言葉、同じ行為の繰り返しではないことが、ご理解いただけたと思います。
まして、お客さまの選択の基準が、そこと関わることが快適かどうか、自分の理念にあっているかどうか、価値が感じられるかどうか、ということになってきているとすると、仕事をするということのポイントが、“決められたことをすること”から“お客さまに求められることと、こちらの提供したいことの、より高い次元での接点を創造すること”に移っていきます。
そのような時代には、全体を視野に入れた、真のホスピタリティーが試されます。以前からそうでしたが、お客さまに最も喜ばれることというのは、けしてこちらを殺して行うこと、こちらの犠牲や負担の上に成り立っている行為ではないのです。顧客満足では、3つの満足という言葉があります。それは、お客さまの満足、それを提供するあなたの満足、あなたの所属する会社や組織の満足の3つです。この3つが重なった部分での満足を考えていくのが顧客満足の考え方です。
そして、お客さまにとって、あなたやあなたの会社と関わることが快適かどうか、自分の理念にあっているかどうか、価値が感じられるかどうか、がより関心事になってきているならば、あなたとしては、より“あなたらしくなる”、つまり、“わたしなら、こうします”“これが私のサービスです”と胸を張って言えるようになっていくことが、それに応えることですね。
仕事は、いい時ばかりではありません。たとえば、トラブルがあったとします。トラブルは、一定の率で起こってきますし、避けて通ることはできません。そこであなたができることは、お客さまから“大変な目にあったけれど、あなたに応対してもらってよかった。また、あなたにお願いしたい。あなたと一緒に仕事をしたい”と言っていただくことです。
同じトラブルでも、それに際してお客さまの感情や言動はさまざまです。もっとも頼りないのは、いずれに対しても、ひたすら謝り、本人は誠心誠意対応しているつもりなのでしょうが、こちらから見ると、突然の事態に慌てている素人にしか見えないようなやり方ですが、実際これは、日常よく見かける光景です。
今日その仕事についたのでれば、今日からは、プロです。怒っているお客さまに対しては、一緒になって感情を乱したりせず、安定した態度で応対し、まずはその怒りを吐き出させて混乱を鎮めた上で、細かいことではなく、大枠の意見や希望をおききして、自分に任せてほしい、と請合うくらいのことは、堂々とやってほしいものです。
逆に、トラブルの早期収拾を強い命令口調で言い放ち、こちらの説明など耳も貸さないお客さまには、怯えることなく、四の五の言わず、相手の具体的な希望と優先順位をききだし、それに対してこちらができることとその期限を明確に伝え、早速処理を始めるなどのスキルは、当然身につけてほしいところです。
そういった基本的なスキルはあたりまえのこととして発揮する上に、さらに、あなたの価値を加えていってほしいのです。
そのために必要なのは、むつかしいことを考えたり、自分に厳しくすることではない、と思います。ホスピタリティーは、自分をまずもてなしてこそ、人にも発揮できるものではないでしょうか?自分を大切に扱わないでいて、相手だけ大切に扱おうとしても、相手はあなたを心から信頼し、寛ぎ、喜ぶでしょうか?あなたの雰囲気は、言葉以上に雄弁に相手に語ります。疲れて神経が過敏になっている方のそばにいると、それだけで、こちらも神経が不快に刺激されますね。自分がいっぱいいっぱいで今にも壊れそうな状態でいては、どんなに工夫をして相手に接しても、相手は気を使くれていることはわかりますが、快適とはいいがたく、自然と離れていってしまうことでしょう。
今の時代を生きる多くの方に一番伝えたいのは、今ここにある、この時点での自分を認めて、よく頑張ってきたじゃない、と労わってあげてほしい、ということです。あそこもまだ、ここも足りない、と四六時中追い立てる声に少しの間、黙ってもらって、いままで頑張ってきたから、ここまでこれたね、よく頑張ったね、と褒めてあげてほしいのです。この先は、そこからしか始まらない、と、多くの参加者を見てきて、そう思うのです。