納得していただくということ
2.交渉していく場合
ビジネスや政治レベルの話し合いから、今日のディナーは何にするかをパートナーと取り決めていくことまで、人生は、交渉の連続です。
交渉が上手くいかなかった時のことを思い出してみて下さい。なぜ上手くいかなかったのでしょうか?二人の意見が対立し、どちらも譲らなかったからでしょうか?二人の意見の間をとってお互いが妥協することでとりあえずは決着をみたけれど、どちらも不満足間が残ってしまったのでしょうか?相手が感情的になってしまったので、理不尽だと思いながらも、しぶしぶ相手の言い分を飲んだのでしょうか?あるいは、立場を利用して、強行にこちらの言い分を通して勝者の満足感を味わったのも束の間、その後のビジネス、人間関係で失ったものの多さを感じることになったのでしょうか?
いずれにしても、後味の悪さを残してしまいましたね。こういう経験が度重なると、ストレスはたまるし、仕事や役割を全うしていく上での充実感が失われていきます。
こんな時、創造的に問題を解決しようとする方々は、具体的に、どのように進めていくのでしょうか?
@まず、問題を解決するのはお互いの智恵しかないことを思い出し、お互いが一つの問題を解決する協力者だという認識をもちます。
Aそして、なぜ自分はこの意見なのか、なぜこう主張するのか、という背後にある考えや理由を、お互いが本音で話し合います。
Bそれを踏まえて、二人で協力して、可能性のありそうな解決方法をいくつか考え、その中で最もよい方法を選び取ります。
Cそして、その解決方法の中で、お互いが得られるものを共に考えてゆきます。
どうしたら、こんなふうに、ことは運ぶのでしょうか?もう少し、説明いたしましょう。
交渉をしていく時は、つい、“相手”と対立関係に立つ気持ちになりがちですが、解決すべきはこの“問題”ですね。それであれば、それに協力できるのは、相手をおいてほかにはないのです。
ポイントは、どのようにして、相手にもあなたと同じような認識をもってもらえるか、です。コミュニケーションがむつかしくなる場合にはいつも2つのことが、絡み合ってやってきます。それは、人という感情面のトラブルと、問題という事実面のトラブルです。これは、性質の異なるトラブルですから、それに対応するスキルも異なりますね。この2つは分けて考えなければ、いい結果にはならないのです。
熱くなっている相手にも、このことを理解していただく必要がありますが、人は自分が熱くなっている時に、あまりに理路整然とクールに対応されると、より熱くなる場合も少なくないです。相手のタイプや性格、成熟度を判断しながら、まずは、相手の感情面のケアをする必要があります。
この場合、一般的に有効なのは、相手の感情をまず放出させてしまうことです。怒ったり、とうとうとまくし立ててくる場合には、まぁ、かなり理不尽なことも耳にすることでしょうけれども、それに反論せずに、気持ちに共感しながら付き合うのが、結果としては早道でしょう。このようなエネルギーは、こちらが受け止めれば受け止めるほど早く消失しますから。
この時のあなたの不安は、そうすることで、相手の要求を認めることになってしまうのではないか、ということですね。ここで共感するのは、あくまでも、相手が、今の状況で、このような感情を発露するのも致し方ない、という感情面だけです。事実面については、この段階では、まだ踏み込まないよう、そこだけは十分注意して下さい。
怒ったりまくし立てるのではなく、むしろ口数は少ないのだけれど否定的な感情をもっている場合には、こちらが相手の心情を理解していることを口に出して伝えることが効果的です。
どちらの場合も、自分の感情を冷静に口に出して伝えることは効果的です。
そうするうちに感情面が落ち着いてきたら、この問題を、一緒に創造的、建設的に解決していこう、といういう方向にもっていきます。それには、相手に自分の意見に対する忌憚ないコメントや、アドバイスを求めることも役立ちます。
そうすることでお互いが同じフェイズに立てたら、次に進みます。ここでは、お互いに異なる意見や主張がぶつかっているわけですが、なぜ自分はこの意見なのか、なぜこう主張するのか、という背後には、今まで口にはしていないさまざまな考えや理由、本音があります。それは、本人でさえすべては明確に意識していないこともあります。これを、お互いが、協力しあって、なるべくたくさんあげていきます。なぜならば、これがたくさん出れば出るだけ、選択肢が増えるからです。今まで、AかBかの二者択一で膠着していましたが、これがたくさん出てくれば、それを組み合わせてさらにC,D,Eという解決策が作れるのです。その増えた選択肢のなかで、よりお互いが必要としているものを満たせて、納得のいくものを選ぶのです。
たとえば、姉と妹で、冷蔵庫に3つしかない卵をとりあっています。姉は、今日自宅に初めてお招きするボーイフレンドにお料理をつくるのに、どうしても3つ必要だと言います。妹は、ポットラック・パーティー(皆で一品ずつ料理を持ち寄るパーティー)で、デザートを持っていく約束になっているので、どうしても3つ使いたい、とこちらも譲りません。いつもなら年上の姉が折れるのですが、今日はなにしろ特別な日なので、簡単に譲るわけにはいきません。いつになく強硬な姉の態度に、妹もますます感情的になり依怙地になってしまいました。
このままいくとどちらにとっても困ったことになる、ここで喧嘩をしても始まらない、と考えた姉は、気持ちを落ち着けて、妹にきいてみました。なぜ、卵が3つ必要なのか、それで何をつくるのか、と。すると、メレンゲを作るのだといます。そうきいてもらった妹も姉に同じように問い掛けました。すると、姉は、カスタード・クリームを作るのに必要なのだ、ということがわかりました。ということは、妹は白身だけ、姉は黄身だけ3つ分あればいいことがわかり、問題は解決したのです。
ビジネス上のお金の絡んだ交渉は、メレンゲとカスタードのようなわけにはいかない、とお感じなっていらっしゃるかもしれません。しかし、国家間の外交交渉に広く使われているハーバード流交渉術も、よって立つ考えは、メレンゲとカスタードなのです。