喜んでいただくということ
2.顧客満足
一昔前から、顧客満足という言葉が、どんな業界のどんな職種の方にも必要になってきています。それは、製品の優位性が保てる期間がとても短くなり、同じような製品が市場にあふれる時代となって、人が物を買ったりお付き合いをする基準が、製品力ではなく人的サービス、つまりその社員や関係する方々がどんなふうに応対してくれるか、ということに移っていったからです。
そして、今はさらに進んで、そこと関わることが快適かどうか、自分の理念にあっているかどうか、価値が感じられるかどうか、ということが選択の基準になってきているように感じます。
もともと、お客さまというものは、完全なものが何の誤りもなく提供されて“当たり前”と感じます。ですから、さらに他とは違う一味をつけようと思ったら、お客さまの思ってもみなかったこと、期待を上回る価値を提供することが必要です。そうして初めて、お客さまは“満足”を感じるのです。そして最初は“満足”と感じられたことも、2度、3度と経験するうちに、今度はそれが“当たり前”と感じられるようになってきてしまうのです。
さらに、お客さまは、あなたのサービスを無意識に何と比較しているかといえば、競合他社のそれとではなくて、今まで経験した一番素晴らしいサービスと比較しているとも言われています。
つまり、顧客満足を考えるということは、これでいい、という終わりがなく、絶え間ない向上をめざすことになります。
そのために、この分野では、いろいろな調査や分析も盛んです。ミステリーショッパーという言葉が最近は新聞でも見られるようになりましたが、これはお客さまを装った調査員が、秘密裡に自社のサービスのようすをチェックするのものです。実際どんなことをするかというと、これが大変面白いのですが、ことがことだけに、ここで暴露するわけにはいきません。あなたも知らないうちに調査されているかもしれませんね。
皆さんも、人的なサービスで嫌な思いをした時、いちいちクレームなどせず、他のお店や製品に鞍替えしてしまうことが多いことと思います。“どうせこんなものだろう、クレームするだけ疲れる”と思う方がほとんどで、クレームする方はわずか4%だそうです。ですから、逆にクレームはとても貴重です。あるコンピュータ・メーカーのサポート・センターの女性は、配属されたばかりの頃はクレームの電話に怯えていたそうですが、ある時からクレームの貴重さを知り、それにきちんと対応した時のお客さまの喜びを経験して、今ではクレームとわかるとエネルギーが沸いてくるのだと話してくれました。
嫌な思いをしたお客さまの過半数は、その経験を身近にいる複数の方にしゃべりますし、そこからさらにまた口伝てに広まります。一人の方に与えた不満足な経験は、こうして、とほうもなく広がっていきます。今はインターネットがありますから、以前とは比べものにならないくらい広く広まってしまいますね。
ところで、皆さんは、お客さまの立場として、とても満足した経験、感動した体験がありますか?セミナーで、参加者におききしてみると、意外に些細なことに感動していらっしゃいます。それは、自分を覚えていてくれて他のお客さまとちょっと違う応対をしてくれたり、一言心のこもった言葉をかけてくれたり、こちらの立場や気持ちを理解してくれた上でちょっとした心がけをしてくれたり、といったことがほとんどです。
私の友人は、オーランドのディズニーワールド内のホテルで、こんな素敵な経験をした知り合いの話をしてくれました。
家族で宿泊したそのホテルでのことです。子供がもう嬉しくて心がはやって仕方がなかったのでしょう、パジャマを床に脱ぎ捨てたまま、出かけてしまいました。そして夢のように楽しかったであろう一日を終えてホテルに戻り部屋に入ったとたん、一家は、驚嘆の声をあげたそうです。そこには、何があったと思いますか?
ミッキーがベッドの上でおかえりなさい、をしてくれたのです。脱ぎ捨てたパジャマが、ベッドの上で、右手を上げた形に整えられ、顔の部分には、ミッキーの顔の形をした石鹸の箱が置かれていたのです。こういった小さな感動が、もう一度お客さまを連れてくるのですね。
このようなことのできるメイドさんは、どのようにして育成されるのでしょう?ディズニーランドの社員教育は、完璧に整備された厚いマニュアルを、長い期間にわたるセミナーでしっかりと身につけた最後に、こう締めくくられます。“お疲れさまでした。今日までに学んだことは、あなたの仕事の半分です。あとの半分は、あなたの今までの経験や智恵をもとに、あなた自身が創りあげていって下さい。”と。
プレゼントをつけたり、値引きをしたりというサービスもあります。これは、しかしコストに関係しますので、無造作にはできません。そしてまた、そうしてもらったお客さまは、その時は喜ぶと思いますが、どうでしょう、このミッキーのパジャマのように、海を越えて人から人へ語り継がれるほどの感動を生むでしょうか?
人が介在することの素晴らしさは、こんな価値を創りだすことにあると思うのです。そして、これには、コストはほとんどかかりませんし、それを提供するサービス提供者にも、たいした時間も手間もかかりません。
対面のコミュニケーションであれば、
第2章 自分を育てる/相手の立場にたつということ(コミュニケーションの流れ)を意識し、とくに
第2章 自分を育てる/相手の立場にたつということ(相手を知る)を心がけることが、お客さまのサイドから見ると、“顧客満足度の高い応対”のキーになってきます。
そして、いつでもものごとには“事実的側面”と“意見、希望、考え、感情の側面”があることを忘れないことです。つまり、質問していく時はその両方をきくようにし、相手が話してくれたことに共感していく時も、その両方を口に出して、理解していることを伝えることがポイントです。とくに、顧客満足というのは、“感情”ですから、これをないがしろにしては、どれほど、事実的側面では特別扱いしたところで、不満を残しかねません。サービスを提供する側のスタンスで、“これだけのことをしてさしあげた”ところで意味はなく、お客さまがどのように感じたか、が基準になるのです。
お客さまがどうして欲しいのかわからない時は、あて推量でいい加減なことをするより、きいてみることです。そのために、顧客満足を真剣に考える会社はどちらも、お客さまの声を少しでもたくさんあつめるシステム作りに腐心しています。そうして集まったデータは、同じ客層をもつ別の業界から、引き合いがくるほど貴重なものなのです。
あなたの個性、知性、経験、思いやり、人生観、価値観が生きるそんなサービス、仕事振りを、心がけてみませんか?