セルフ・コントロール
3.思考を変える、自分を変えるき
今まで、自分の望ましくない言動を変えるために、どうしていらっしゃいましたか?たとえば、大勢の人の前で話す時、緊張のあまり、早口になることを変えようとしてきた、とします。
ここで、変えようとするのは「早口になる」という言動です。そして、それを引き起こすのは「緊張」という感情です。そして、出来事は「大勢の人の前で話す」ですね。
中には、「早口になってはいけない」「ゆっくり話そう」と、“言動”そのものに焦点を当てていた方がいらっしゃるでしょう。ゆっくり話すために、リハーサルで話す速度をチェックしたり、300文字の原稿を1分かけて読む練習をするなどは、これに該当します。ところが、このやり方は、本番になるとどうしても緊張するので、せっかくリハーサルや練習をしたことが役に立たなかった、ということにもなりかねません。これがハウツーとよばれるものです。
では、緊張してはいけない、緊張しないようにしよう、と“感情”そのものに焦点を当てた場合はどうでしょう?これは、想像しただけで、役に立たないことがわかります。だいたい、緊張しないようにしよう、と思うだけで緊張しなくなるなら、それが問題になることなどないわけです。むしろ実際は、緊張してはいけない、と思えば思うほど、緊張するものです。なぜなら、そうすることで、緊張感という感情に、よりエネルギーを注ぐことになるからです。
では人にできることは何でしょうか?それは、“思考”に焦点をあてることです。人前で話すことに緊張するあなたにお伺いいたします。あなたは、「大勢の人の前で話す」ということに対して、どのような見解、考えをおもちでしょうか?なぜ、あなたは、大勢の人の前で話すと、緊張するのでしょうか?
この質問をすると、いろいろなお答えが返ってきます。
“間違ったことを言ってはいけないと思うから。”
“皆を説得できなかったらどうしよう、と思うから。”
“こちらがどう思われているか、皆に受け容れられているかどうかが気になるから。”
“いつも楽しい気分でいたいのに、そうじゃないことになったらどうしよう、と思うから。”
つまり、それを裏返せば、「大勢の人の前で話す」ということに対して、それぞれ、次のような見解をもっているということです。
“けして間違ったことを言ってはいけない。”
“いつも議論に勝たなければいけない。”
“全員の方に、絶対気に入られなければならない。”
“自分はいつもいい気分でいなければならない。”
どうでしょうか?およそ、そのようなことは不可能なことばかりですね。こんなことは、誰にもできないことです。ですから、このような考えをもてば、当然緊張することがわかります。
そこまでわかったならば、今度は、それを変えていきます。自分の意志と努力で効果的に変えることができるのは、“言動”や“感情”ではなく、この“思考”なのです。
では、どうしたら、この長い間に培われてきた見解を変えることができるのでしょうか?そこで、思考を変えるためのスキルをご案内しましょう。
まず、望ましくない言動を引き起こすもとになる“思考”を突き止めます。それがわかったら、今度はそれを望ましい言動を引き起こすだろう“思考”に変えていくわけです。そのために、できれば毎日一度以上、古い“思考”に働きかけ、新しい“思考”へと徐々に置き換えていきましょう。たとえば、「大勢の人の前で話す時には、けして間違ったことを言ってはいけない」という思考に挑戦するとしますね。
「間違わない人間なんて、いないよなぁ。」
「尊敬する〇〇先生も、この間の講演会で言い間違って指摘されたけれど、訂正して謝ったら、別にそれ以上の問題はおこらなかったっけ。」
「わからないことを質問されたら、後から回答する、という手もあるんだ。」
「やるだけのことをやれば、たまに間違うことがあっても、それはそれでいいんじゃないかな。」
という具合です。そして、これを100日を目途に続けて下さい。というのは、思考のパターン(クセ)を変えるには、約100日かかると言われているからです。もっとも100日経つ前に、変化している自分をきっと発見することでしょう。