セルフ・コントロール
2.思考の働き
行動科学は、思考こそが、感情や言動を引き起こすと教えています。それは、次のように説明されます。
「失礼な物言いのクレーム電話」という出来事に遭遇した時、かつての彼女や多くの同僚は、「上の空の応対」という言動をとります。この言動は、どこからくるのかというと、「なんて今日はついていないのだろう」「失礼な!」「怯える」、「できれば早くに切り上げたい、誰か別の担当者に回したい」という感情からきます。人は感情の動物といわれますが、一旦感情が生じると、そのエネルギーを消すことはできません。そのエネルギーはそのままそれにふさわしい言動を引き起こします。悲しければ泣く、怒れば語気が荒くなる、というように。(そういった自然な行動を意志の力で押しとどめる場合は、そのエネルギーは自分の体の中にこもり、ストレスとなります。)「ああ、いやなお客さまだ、早く電話を切りたい」と思った担当者は、ろくに話をきかない、まともに相手をしないなど「上の空の応対」という言動をとります。
では、その感情はどうして生まれてくるのでしょうか。それは、その出来事に対して、その方が今までに培ってきた考え方や見解、つまり思考にあるのです。
それでは、かつての彼女や多くの同僚は、「失礼な物言いのクレーム電話」という出来事に対して、どのような見解をもっているのでしょうか?それはたとえば「お客さまだからといって、こんな失礼な言い方はするべきではない。冷静に話すべきだ」というものです。このような見解をあらかじめもっていて、そこにまさにそんな出来事が起ったので、今見てきたような感情や言動が引き起こされたわけです。
では、今の彼女はどうでしょうか?彼女は、クレームが貴重であるという話をきくことや、自分自身のクレーム対応でいい経験をすることによって、このような電話に対する見解が変わります。つまり、「こういう方にこそ自分は必要だ」「こういう方ほど、敏感に、こちらの誠意ある応対を求めている」という見解です。すると、そこから生じる感情は「エネルギーが沸いてきて、気持ちに弾みがつく」、引き続く言動は「自然に明るく、はっきりとした声がでる」「一段と張り切った声が出る」となったのです。