プロローグ
企業研修インストラクターとして、さまざまな業界、さまざまな業種の方々の、成長のお手伝いをしてまいりました。一般にコミュニケーション・スキル、ヒューマン・スキルと呼ばれるものを数日かけてお伝えしていく中で、仕事への取り組み方はもとより、ものの考え方、人とのかかわり方、ときに自分の価値観や人生観までも変えて輝きだす場面に数多く立ち会ってきました。人が成長するためには、ちょっとした、けれども決定的に大切なヒントがあって、それを知ることで、癒され、励まされ、自分を活かし、人に好かれ人を好きになり、仕事も人生もより輝かせることができるのです。
この本では、あなたが自分の力に気づき、自分に癒され励まされ、もうこれ以上の頑張りはやめて楽になり、なりたい自分へと成長し成功する、そのお手伝いをしたいと思います。
さて、人生の多くの時間を投入する仕事の場面を見てみますと、仕事を通して成長していく場合、大きく3つのジャンルに分けて考えるといいようです。
一番目は、その仕事や役割に特化した専門的なこと、その仕事そのものに関係することです。銀行の窓口の方ならば、口座開設の手続きや、金融商品の知識、法規制、税制などがそれにあたります。システム・エンジニアであれば、システムの開発や運用に関する知識や技術など、営業マンなら、扱う商品や競合商品の知識、市場動向などがこれに該当します。
二番目は、その専門的なことを、相対する方々に、どのように伝え、働きかけていくか、という人間関係・コミュニケーションの力です。銀行の窓口の方は、同じ金融商品の説明でも、それぞれのお客さまに合った説明を心がけていらっしゃいます。SEの方は、お客さまの要求を正確にお聴きしたり、チームのメンバーとの人間関係に気をつけています。営業マンは、お客さまとよい関係を作ることが不可欠ですね。これらが、人間関係・コミュニケーションの力です。
三番目は人的資質、つまり姿勢やマインド、持って生まれた個性・特性です。専門分野を修得し、人間関係・コミュニケーションの力も身につけた、でも実際に使いこなしていくかどうかは、その方の意識や姿勢、マインドに関わってきますね。また、急なリストラにあってショックを受け、落ち込むのは誰しも同じです。でも、何ヶ月も暗澹とした心持ちのまま不況を嘆き、不遇をかこっている方もいれば、これぞチャンスと、新しい可能性にチャレンジする方もいらっしゃいます。同じ状況におかれても、人により感情や行動が異なるわけですが、これが人的資質の表れです。さらに、生まれ持った個性・特性によって、発揮しやすい力、しにくい力がありますし、一緒にチームを組むメンバーとの相性で、楽しさ、生産性に大きく違いがでることも、研究されています。
この三つのジャンルは、自転車とその乗り手にたとえることができます。一番目の“専門的な仕事の力”は自転車の駆動輪である後輪、二番目の“人間関係・コミュニケーションの力”は方向づけをする前輪、そして三番目の“人的資質”は、乗り手です。自転車は、後輪、前輪のバランスをとりながら整えていきたいですね。また、いくら自転車を立派に整えても、それを前に進めていくのは、乗り手の元気さや前向きな気持ちに他なりません。ご自身を成長させるには、この三つに目を配りたいものです。
さて、時代の変化に伴って、社会の構造も、個人の意識も大きく変わってきました。ピラミッド構造だった組織は目に見えないところで、あるいは目に見えて崩壊し、グループ制などのフラットなものに移行しています。また、そこで働く一人一人の意識も、組織に帰属するというものから、組織と対等の立場で契約関係にあるという意識に近づきつつあります。日本を代表するような大企業の新入社員が、自己紹介で、“…自分は、頑張ってここまできて、〇〇株式会社に入社しましたが、仕事が自分に合わなければ、辞めます。”と忌憚なく表現するのをあちらこちらで耳にするようになったのは、ここ数年のことです。そういった変化は、さらに、次なる変化を引き起こしています。ピラミッドの上からの指示命令で事足りていたマネージメントは機能しなくなり、部下から力を引き出すような質問型リーダーシップ(コーチング・スキルなど)を使わなくては、人は動かなくなりました。顧客満足度を向上させるには、サービスを提供する側の社員の働く充実感、楽しさの向上が必要なのだ、ということに気づき始めました。
出口の見つからない経済の停滞の中で、営業マンは、いくら“頑張って”も思うように売上が上がらず、かと言って、自分とあまりに価値観の違う先輩の背に習うこともしがたく、指針を失っています。また、システム・エンジニアは、細心の注意を払ってお客さまの希望を聴き出して要件定義をしても、出来上がったものに対してお客さまから“これは、自分が欲しいものではない”と言われることが、実際しばしばです。こういったケースを見るにつけ、人と人が理解しあうということはいかに難しいことなのか、今までどれほど曖昧な相互理解をしていたのか、と気づかせてくれます。
応酬話法は時代にそぐわなくなり、あたらしい交渉術、問題解決法が研究され、万能に思えたプレゼンテーション・スキルは、耳を傾けて聴くアクティブリスニング・スキルに道を譲りつつあります。
仕事は、人生の大切な時間をかなりの部分占めます。それを、もう、これ以上頑張るのではなく、また我慢したりあきらめたりするのではなく、生き生きと働きながら生産性もあげていく、新しい方法はないものでしょうか?自分を否定するのではなくてポジティブに受け容れ、しかも共に仕事をする方々の個性も活かして、自分も相手も尊重して協働していく方法はないものでしょうか?
肩に力が入れて頑張りすぎて疲れ果てている営業マンからものを買いたくはありませんし、目標を達成しようと必死になって厳しく追い立てるばかりの上司のもとで、時間もエネルギーも惜しみなく出し切っていい仕事をしようと思う部下はいません。顧客満足、ホスピタリティーというと聞えはいいですが、サービス提供者自身が無理をしていたり、楽しんで仕事をしていなければ、一見どんなにきちんと応対をしているようでも、お客さまの満足には繋がりにくいのです。
Work Smarter, Not harder!
もう頑張るのはやめて、今始まりつつある新しい時代を生きるために、自分をリ・クリエイトしてみませんか?
このテキストでは、今までの経験をもとに、セミナー、講演会に参加してくださった数千人の皆さまから教えていただいたこと、たくさんのパートナーの実践結果などを踏まえて、読んでくださるあなたが、自分を受け容れ、生き生きと楽しく仕事をして成果を得、自分らしく生きていくのに役立つ小さなヒントを、たくさんご紹介していきたいと思います。
第1章 |
自分を知る、自分を探す
では、ご自身の強み、特性、コミュニケーションのクセなどがわかる理論をご紹介します。これは、ありのままの自分を受容したり、また苦手な方を理解するのに役立ち、仕事をしていく上でもっとも難しいものの一つである人間関係を、楽にしてくれるヒントとなることでしょう。 |
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第2章 |
自分を育てる
では、“相手の立場に立つ”ということを、具体的にお話します。私は、たくさんの方々の仕事振りを拝見してきて、仕事をしていく上で一番大切なことは、“相手の立場に立つ”ことではないか、と思っています。それを、話す、聴く、交渉するなどの場面で、具体的にどのように言動に表すかをご案内いたします。 |
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第3章 |
新しい出発
第一章、第二章が、人間関係・コミュニケーションの力に関するものであるのに対して、第三章は、人的資質に関するものです。思考や感情、言動はどのような関係にあり、それらを望ましい方向に成長させるにはどうしたら効果的なのか、過去のパターンを手放し自分のゴールに達するための道を知るのに役立つことは何か、などについて、ご案内してまいります。 |
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